漁業ブの太刀川です。この年末年始・オーストラリアのタスマニアを訪問し、北三陸ファクトリーの下苧坪氏にお会いしてきました。
北三陸ファクトリーは2023年からオーストラリアに合弁会社を設立し、独自の特許を持つウニの再生養殖技術を世界に広げ、グローバルな事業展開を図るとともに、近年大きな海洋生態系の問題となっている、磯焼け問題の解決を図ろうと取り組みを広げています。その代表である下苧坪氏に、現地でインタビューを行いました。
なぜタスマニアがウニ再生養殖の拠点として選ばれたのですか?
タスマニアは豊かな海洋資源を有し、特にコンブなどの海藻が豊富に生息しています。これはウニやアワビなどの沿岸漁業において重要な要素の一つです。また、水温もウニの生育に適しており、環境保全に対する意識が高い地域であることも理由の一つです。さらに、磯焼けが深刻な問題となっている地域でもあり、我々の技術が貢献できる余地が大きいと考えました。
磯焼けが進む具体的な要因とその影響について、タスマニアの海ではどのような現状がありますか?
タスマニアの磯焼けは、ロングスパインウニ(Long-spined sea urchin, Centrostephanus rodgersii)の過剰繁殖により海藻を食べつくしてしまう現象と、気候変動による海水温の上昇などが要因として挙げられます。
これにより、海藻が著しく減少し、ウニを含む海洋生態系全体に悪影響を及ぼしています。海藻がなくなると、ウニは餌不足で痩せてしまい、価値がなくなります。
合弁会社設立の経緯やパートナーシップの狙いを教えてください。
タスマニアの環境問題解決に貢献したいという思いと、当社の再生養殖技術を海外展開したいという戦略が合致し、合弁会社設立に至りました。また、Richey Fishing社とのパートナーシップは、現地の環境や規制に関する知見、ネットワークを活用できる点で非常に重要です。JVにより、タスマニアの水産加工会社を取得し、共同経営でタスマニアの環境に配慮し漁獲された、サステナブルシーフードの流通にチャレンジしています。
ウニの再生養殖における具体的な技術やプロセスについて教えてください。
当社の再生養殖は、磯焼けで痩せてしまったウニを捕獲し、陸上の水槽や海面で当社が開発した世界で唯一のウニ専用飼を与えて育てる技術です。これにより、ウニは再び身が入り、商品価値を取り戻します。重要なのは、ウニが好む海藻が含まれた餌を安定的に供給すること、そして自然に近い環境で育てることです。
日本での養殖技術や知見が、タスマニアの海でどのように活用されているのですか?
日本で培ってきたウニの養殖技術、特に餌の配合や水質管理に関する知見をタスマニアで活用しています。ただし、タスマニアの環境に合わせて微調整を行っています。例えば、タスマニア産の海藻を餌に活用するなど、現地の資源を最大限に活用する工夫をして進める予定となっております。
このプロジェクトがタスマニアの環境(磯焼けの改善、海洋生態系の回復)にどのような貢献を期待していますか?
このプロジェクトは、磯焼けの改善、海洋生態系の回復に貢献することを期待しています。痩せたウニを商品価値のある状態に戻すことで、漁業者の収入向上にも繋がり、持続可能な漁業の実現に貢献できます。
地域社会や漁業関係者との協力体制やコミュニケーションの工夫はありますか?
地域社会や漁業関係者とのコミュニケーションを密に行い、プロジェクトへの理解と協力を得るように努めています。説明会や勉強会などを積極的に開催し、透明性の確保に努めています。また持続可能な養殖を行うために、環境負荷の低減、資源の有効活用、地域社会への貢献などを重視しています。例えば、排水の浄化、餌の効率的な利用、地域雇用の創出などに取り組んでいます。
再生養殖されたウニの販売計画やマーケティング戦略について教えてください。
再生養殖されたウニは、北米、東南アジア、そしてEUといった海外市場と日本国内で販売を計画しています。高品質なウニとして、差別化を図り、ブランド価値を高めるマーケティング戦略を展開していきます。特にも当社では日本初ウニでのEU HACCPを取得しておりますので、EUはチャレンジする価値のあるマーケットだと理解しております。
プロジェクト開始後に直面した課題と、それに対する解決策を教えてください。
ウニの特性を理解した上での水質管理や餌、カゴの確保など、操業初期には様々な課題に直面しましたが、北海道大学ら研究者との緊密な連携と、日本国内での経験を活かして解決してきました。
今後、他の地域や国での展開も視野に入れていますか?
今後、このプロジェクトの成功事例をもとに、他の地域や国(北米、ヨーロッパ諸国、アジア、中東)への展開も視野に入れています。 このプロジェクトを通じて、持続可能な水産業のモデルを構築し、世界の海洋環境保全に貢献していくことが最終的なビジョンです。
日本とオーストラリア(タスマニア)の文化や価値観の違いはありましたか?
タスマニアの環境や文化を尊重し、現地のやり方を学びながらプロジェクトを進めています。例えば、地域住民との交流を積極的に行い、信頼関係を築くように努めています。
日本とオーストラリアの文化や価値観、商習慣の違いは、プロジェクトを進める上で様々な影響を与えますが、互いを尊重し、コミュニケーションを密にすることで乗り越えています。
太刀川より:タスマニアは食料自給率が250%、資源が豊富で資源管理も厳しくしっかりしている州とのこと。人もよく、南極からフレッシュな空気が上がってくるので、世界一空気がキレイだそう。そんなタスマニアを拠点に、日本発の水産ベンチャーが活動の場を広げています。
北三陸ファクトリーは、アメリカ西海岸ポートランドにあるシリコンバレー発のITベンチャー企業とも協業して、ウニの陸上養殖をしていくそうです。日本国内で30年培ってきた技術で、日本の高い品質のウニを世界の人々に届けようとする下苧坪さんの取り組みを応援していきたいと思います。(タスマニア州:ホバートにて)